私が自分のキャリアを前向きに受け入れられるようになるまで|キャリコン歯科衛生士のお悩み相談室#1

皆さん“キャリア”というと計画を立てその道筋に沿って進んでいく…というイメージが強いかもしれません。
しかし実際、そんな教科書通りにうまくいくことばかりではないはずです。
キャリアってなんだか難しそう、そこまで考える必要があるのかな…と思う方もいるでしょう。

本連載は歯科衛生士と国家資格キャリアコンサルタントのダブルライセンスを持つ冨澤幸子さんが、歯科衛生士としての臨床経験のほか、歯科衛生士養成校の教員や一般企業での勤務経験など多彩なキャリアを歩んできた経験を活かし、皆さんのキャリアのお悩みにお答え。
歯科衛生士という道を選んだ皆さんがその資格を活かして楽しく職業人生を送れるよう、考え方・生き方のヒントをお伝えしていきます。

第1回目となる今回は、まず冨澤さん自身のキャリアについて振り返っていただきました。

プロフィール

冨澤幸子

歯科衛生士/国家資格 キャリアコンサルタント

とみざわ さちこ/金融機関での営業職を経て、歯科衛生士にキャリアチェンジ。歯科衛生士養成校を卒業後、歯科クリニックや市役所、歯科衛生士養成校に勤務。現在は企業の人材確保・採用支援に関わる仕事に携わっている。

はじめに

はじめまして、冨澤幸子です。
私は歯科衛生士の資格を取得して17年になります。
歯科衛生士の資格を取得してから今の仕事で6か所目。
就職するたびに「その職場で定年まで過ごす自分」をイメージして入職しているにも関わらず、気づいたら行き当たりばったり。
20代の頃就職活動をしていたときに考えていた人生とは全く違う仕事人生になっていました。

そんな私が自分のキャリアを前向きに受け入れられるようになるまで、どんな気持ちの変化があったのか、ここまでの道のりを振り返ってみました。

自分となかなか向き合えなかった歯科衛生士になる“前”の私

私はいわゆる“セカンドキャリア”組です。
歯科衛生士になろう(正確に言えば資格を取ろう!)と思ったのは、大学を卒業し、地元の金融機関で営業の仕事をしているときでした。

当時、周囲には精いっぱい頑張る姿を見せながらも、心の中ではいつも「仕事辞めたいな」「ここにいても私の人生目指すものがないな」と思っていました。
今なら、進学や就職活動のときに自己分析が足りていない、目の前のことに向き合おうとしていなかったことが原因だとすぐにわかります。
でもそのときの私は「ここではない別の場所で、ちょっと人と違う特別なことをしてみたい」ということで頭がいっぱい。
そんな理由から就職氷河期にやっと入った会社をたった2年で退職し、歯科衛生士を目指すことに決めました。

こんなはずじゃなかった…不安でいっぱいの歯科衛生士学生時代

歯科衛生士の専門学校に入学したものの、すぐ後悔。
出欠には厳しいし、毎日の課題も多い、日々の行動などに対して細かく厳しい。校舎も古くて薄暗くて、専門学校のパンフレットのようなキラキラした毎日のイメージとは程遠いものでした。
しっかりとした志望動機もなく、「特別な(ちょっと変わった)人生を歩みたい」という、実際自分がどうしたいのかもわかっていない目的で入学した私は、「こんなはずじゃなかった。間違えた…失敗した…」と思いました。

「やりたいことをやるんだ」みたいな偉そうなことを言って仕事を辞め、専門学校入学を決めた私は、そんな気持ちを誰にも言えず、ただただこの先の人生が不安になっていました。

歯科衛生士としてのモチベーションが芽生えたある先生との出会い

そんな中で出会ったのが、非常勤の歯科衛生士の先生。その先生の話す歯科衛生士の仕事はとても魅力的でした。
仕事内容そのもの以上に、私は先生の「歯科衛生士の仕事に誇りを持っていて、プロフェッショナルな姿」に大きく惹かれました。

先生との出会いを機に
「認定歯科衛生士ってカッコイイな」
「臨床ができる歯科衛生士になりたい」
そんな「歯科衛生士としてこうなりたい」という思いを抱くようになった私は、歯科衛生士になるモチベーションを持つことができ、無事に国家試験に合格しました。
歯科衛生士として働き出してからは、勤務以外にも休日セミナーや学会などに参加し、「24時間365日常に歯科衛生士」な毎日を送っていました。

けれど今このときの私を思い起こしてみると「歯科衛生士の仕事に誇りを持っていた」わけではなく、「仕事に誇りを持った自分になりたい」という気持ちが強く、少し背伸びをしていたように思います。

キャリアの年数を積んでも自信がもてない 迷子になってしまった日々

その頃の私は、「歯科衛生士の仕事は素晴らしい」と思っているものの、いざ「どこが?」と聞かれるとなんだかセリフを話しているような答えしか出てきませんでした。
仕事の魅力を自分の言葉で説明できていない…どこか自分ごとではないような、そんな感じがしていました。

今だからこそ思うのが、「理想の歯科衛生士になるには、憧れの先生と同じ道を歩まないといけない」そんなふうに他人の人生をなぞるのに必死だったのかもしれません。

そんな「ズレ」に気づかないまま、その後も周囲からのアドバイスなどもあり、市役所、歯科衛生士養成校の教員、と一つの職場にとどまらず転職を重ねました。
どの職場も学びがあり、そのときそのときで「歯科衛生士」として意見を持つこと、口腔衛生の大切さを伝えることに使命感をもって過ごしていました。けれど、歯科衛生士になってから10年を過ぎたとき、なんのプロフェッショナルにもなっていない自分に気づき愕然としました。

自信をもって「歯科衛生士です」と言えない……。
思い返せば、いつもどこかに「これでいいのかな」というモヤモヤがあったように思います。

何しろ私の憧れる歯科衛生士像は「先生のような臨床に自信を持っていて、かつどんな分野に対しても歯科衛生士としての意見を持っている人」。
でも今の私は臨床はもちろん、どの分野に対しても自信を持てるほどの経験がない…。
なら今からでも遅くない、まず臨床を一からはじめようか、ということも考えました。けれど心のどこかで、何か違うと感じ、無理をして頑張ろうとしている自分に気づき、前に進めませんでした。

仕事に誇りを持った人になりたいと思っていたはずなのに…。
40歳を前にしたとき、自分の歯科衛生士人生にむなしさを感じるようになりました。

同僚のたった一言で自分の価値観が見えてきた

そんなむなしさが大きく変わるきっかけが、同僚の一言でした。
当時、歯科衛生士養成校の教員として働いていたのですが、
同僚に言われた「冨澤先生は学生の話をよく聞くんですね」という一言が私にとって大きな転機となりました。

『何かあったときに、すぐに決めつけず当事者としっかり話さなければいけない』

私がそう「しなければいけない」とまで強く思っていたことが、他の人の目から見たら当たり前ではなかった。しなければいけないことではなかったんです。
これは衝撃でした。
この後よく考えると、他にもこのようなことがありました。

自分の仕事を他の人に引き継いでも、目標に対するアプローチの仕方が違う

同僚に過去の仕事の話をしたら、「昔から周囲との調整をしてきたんだね」と言われる

自分のしてきたことって、当たり前じゃなかった…

一つ気づくと他のことについても、私がしていることは誰がしても同じではなく「私の価値観に基づいている行動なんだ」ということがたくさん見えてきました。
そして「周囲と連携すること」「相手が何を考えているのかをしっかり聞くこと」が“私の大事にしたいこと”で、私のやり方の特徴なんだと見えてきました。

このことから、
『私は相手の話を聞き自分の意見を言い、話し合いができる環境が働きやすく、またそういう社会をつくっていくことに貢献していきたい』
そんな自分のやりたいことやありたい自分の姿にやっと気づくことができたのです。

他人目線から自分目線に変わると、苦しさから解放された

こう思えたら、どこか引け目を感じていた今までの行き当たりばったりの道も、すべてが自分の特徴や価値観を見つけるために必要な経験だったなと、すっと受け入れることができてきました。
そのときそのときに悩んだり苦しんだり葛藤してきたのも、「私はこうありたい」と思う理想に向かってもがいていた証なんだな、と。今では「愛おしいくらいの経験だった」と思っています。

若いころ「特別な(ちょっと変わった)人生を歩みたい」「プロフェッショナルになりたい」と漠然と描いていた理想は、周囲からすごいと言われるような実績や名声が含まれていたように思います。
でもやっと「自分の人生は自分だけの特別なもの」と気づき、心からそう思えるようになりました。
今も、日々の仕事の中で「こんなはずじゃなかった」「これで良いのか」と思うことはあります。
そんなときは、深呼吸しながらこのことを確認します。
自分がこれからやりたいこと(社会への貢献の仕方)や、自分のありたい姿になるために必要な道の上を歩んでいるか。
そうであれば全てオッケーです。

「これで良いのか」の判断基準が、「他者からの評価」ではなく、「自分がやりたいか・なりたい自分に近づくためのものか」という「自分軸」に変わると、大変なことややったことがないことも、ありたい姿になるための過程の一つとして、受け入れることができるようになりました。

逆に言えば、こんなはずじゃなかったなどと感じているときは、どこか力が入りすぎていたり、自分のありたい姿ではない心や行動をしているとき。これを思い出すと、冷静になれます。
最近私が一番大切にしていることは、自分が居心地よく柔軟な心でいられているかどうか。
やっと軸ができてきたのかな、と思う毎日です。

選んだ道を「正解」にするのは他でもない、自分自身

「選んだ道を正解にする」
そのために大切なのは、「今まで自分が何を基準にその道を選んできたのか、自分のその大切にしてきた何かに「気づく」こと。

キャリアと聞くと「すでに名前のついている何か」と思ってしまいがちですよね。
けれど、みなさんが自分のキャリアを考えるときこれを見つけてみてください。

「私はどんな思いでその仕事をしてきたのだろう」
「私は何に価値を置いて仕事をしているんだろう」

丁寧に整理していくことで、きっと自分の道=キャリアが見えてきます。

例えば、私の「転職数が多い」これは失敗キャリアでしょうか。
ここまで読んでくれた皆さんなら、わかりますよね。
もちろん、失敗と思って落ち込んだことも、周囲からの評価に傷ついたこともあります。
けれど今の私にとって転職やその職場ごとでの経験は、「愛おしい経験」。
私を正解へと導くための大切なヒントだったんです。

もし今、歯科衛生士や歯科衛生士を志す皆さんが、選んだ道にモヤモヤしている、失敗だったと思っているとしたら、それは自分の興味や価値観、能力などに合った仕事を見つけるための大切なヒント。

特に社会人として毎日過ごす中では、「頑張っているのに…」とか、逆に「そこまで頑張りたくないな…」などなど学生のころとは違う様々な気持ちが出てくるでしょう。
そのどれも「不正解」ではありません。

例えばもし「頑張れない…」と思ったら「それじゃダメだ」ではなく「なんで自分は頑張れないんだろう?」「頑張りたくないってどういうことだろう?」と一歩踏み込んで考えてみてはどうでしょうか?
もしかしたら
あなたのなりたい歯科衛生士像と今の仕事が結びついていないからかもしれない。
あるいは
仕事以前に、人間関係などが原因で「なりたい」「やりたい」を考えられる状況にないだけかもしれません。

皆さんの正直な気持ちやモヤモヤと向き合ってみた先に、きっと「自分に誇りをもって未来につながる何か」が見つけられるはずです。
それが、あなたにとっての正解!

キャリアを考えるときに、他人から見てどう思うか、ではなく自分がどう感じてどうしたいかを見つめて、「ありたい自分の姿」に気づくことで、どんなときでも自分に「正解!」と言ってあげられるのではないかな、と私は思います。

 


次回から、具体的なお悩みを取り上げ、そんな「ありたい自分の姿」に気づくヒントをお伝えできたらと思います。

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