診療分野を知ろう!〈矯正歯科編〉|歯科衛生士知っとこ!職場の見極め塾#14

こんにちは!ライターのヤナギです。 これまでに10年以上、クオキャリアでたくさんの歯科医院を訪問したり、記事を執筆したりしてきました。
その経験から、歯科衛生士の皆さんに「自分に合った職場を選ぶためのヒント」をご紹介します。

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「診療科目」「診療分野」は、就活の重要なチェックポイント

この連載のLesson 6で、歯科医院の「診療科目」や「診療分野」について解説をしました。

診療分野について考えてみよう!〈小児歯科編〉 |歯科衛生士知っとこ!職場の見極め塾#6

Lesson 6では、

・歯科医院によって力を入れている診療内容が違い、それによって、学べることや身につけられるスキルが大きく変わってくること
・そのため、就職活動の際には「診療科目」「診療分野」をチェックすることが大切だということ

をお伝えし、その中で「小児歯科」を取り上げて詳しく紹介しました。

今回は「矯正歯科」にスポットを当てて、矯正歯科での歯科衛生士の仕事の特徴をご紹介します。
ほとんどの方はすでに知っていると思いますが、矯正歯科で行われる矯正治療とは、ワイヤーやマウスピース、お口周りの訓練など、さまざまな方法で歯並びを正しく整える治療を指します。

ちなみに、この分野は「矯正歯科」や「矯正」と呼ばれることが多いですが、正式な診療科目名は「歯科矯正科」です。

矯正歯科での歯科衛生士の業務内容

矯正歯科で歯科衛生士が行う仕事内容は、大きく、「矯正歯科でしか行わないもの」と、「一般歯科と共通のもの」に分けられます。

矯正歯科でしか行わない業務

ワイヤーの付け外し

矯正治療の中で最も一般的なのが、ワイヤーを使った矯正です。
歯に「ブラケット」という装置を付け、ブラケットにワイヤーを通すことで力を加えて、歯を動かしていく矯正方法です。
ワイヤーとブラケットはしっかり固定しておく必要があり、細い針金をブラケットに巻き付けて結ぶのが一般的な方法です。
この作業を「結紮(けっさつ)」と呼び、結紮を含めた「ワイヤー交換」は、矯正歯科で歯科衛生士が任されることの多い仕事です。

結紮の際には、「プライヤー」という細長いペンチのような器具を使って、クルクルと細い針金(結紮線)を結んでいきます。
これはまさに、矯正歯科でしか見かけない光景!
実は私自身も小学生のころにワイヤー矯正を受けていたのですが、クルクルとプライヤーを回す手つきがカッコいいなと、子どもながらにいつも思っていました。
「職人技」に憧れる人は、結紮という業務に魅力を感じるかもしれません。

最初は結紮を難しいと感じる人も多いようですが、幸いなことに、模型で何度も練習ができる業務です。
先輩にアドバイスをもらいながら練習を積み重ねれば、誰でもきちんと上達できるでしょう。

なお、ワイヤーとブラケットの固定方法は、結紮のほか、ゴムなどを使う場合もあります。

マウスピース矯正のアタッチメント設置

最近は、ワイヤー矯正だけでなく、マウスピースを使った矯正もかなり一般的になりました。
歯に透明なマウスピースを装着し、マウスピースを定期的に変えることで、歯を動かしていく矯正方法です。

マウスピース矯正では、治療効果をより高めるために、歯に「アタッチメント」という、レジンでできた出っ張りを取り付けることがあります。
アタッチメントを取り付ける位置や種類は歯科医師が指定しますが、付け外しの作業自体は歯科衛生士に任されることが多いです。

また、マウスピースがしっかりフィットしているかのチェックも、歯科衛生士が行うことがあります。

口腔筋機能のトレーニング

ここまで見てきたワイヤー矯正やマウスピース矯正は、「外から力を加えて歯を動かす」矯正方法でした。
一方で、お口の周りの筋肉のトレーニングによって、正しい歯並びに導いていく矯正方法もあります。

これは主に成長途中の子どもを対象に行われ、「MFT(口腔筋機能療法)」という手法が代表的です。
幼いうちからこうしたトレーニングに取り組むことで、将来、ワイヤー矯正などの本格的な矯正が不要になる可能性が高まります。
また、鼻呼吸などの悪い癖がなくなることで、全身の健康状態にも良い影響を与えます

口腔筋機能のトレーニングは、まずは歯科医院でレッスンを行い、それを基に患者様が自宅で実践するという2本柱で進めていきます。
この歯科医院でのレッスンを、主に担当するのが歯科衛生士です。
専門的な知識が必要になりますが、院内外の研修で学べばきちんと身につけられる内容なので心配いりません。

なお、口腔筋機能のトレーニングは、「予防矯正」や「口腔育成」などと呼ばれることもあります。

一般歯科と矯正歯科で共通の業務

このように、「矯正歯科ならでは」の業務がある一方で、一般歯科でも行われる業務も多くあります。

・口腔内写真の撮影
・印象採得(光学印象を使う場合も多い)
・TBI
・クリーニング
・診療補助

などです。

こうした業務では、歯科衛生士学校で学んだことがそのまま活かせますし、将来的に一般歯科で働くことになったときに役立つ歯科衛生士の基本となるスキルを身につけられます。

ただし、TBIやクリーニングは矯正装置がついた状態なのでコツがいるほか、診療補助では矯正歯科特有の器具を覚える必要があるなど、矯正歯科特有の側面もあります。

矯正歯科のやりがい

実際に矯正歯科で働いている先輩は、次のような「やりがい」を感じているようです。

・治療が終わって装置を外し、キレイな歯並びを鏡で見た瞬間の、うれしそうな患者さんの顔が忘れられません!
・歯並びが良くなったことで、「次はホワイトニングをしようかな」と、自分の歯に愛着を持ってくれるようになりました。
・歯並びが悪いことがコンプレックスで、表情も固かった子どもの患者さん。ところが、矯正治療をしたことで自信がつき、笑顔でハキハキ話してくれるようになりました!
・歯が動くことが純粋に面白いと感じます。治療の結果が目に見えてわかるところが、矯正歯科の魅力です。
・矯正治療には数年かかることが多いので、患者さんと仲良くなれ、信頼関係が築けることが楽しいです。
・矯正歯科は子どもの患者さんが多く、子どもたちがキレイな歯並びで成長していくことに関われるのがうれしい!

こうした先輩たちの声から、矯正歯科は、単に「歯並びを良くする」だけが役割ではないことがわかると思います。
矯正治療を通して、患者さんご自身の「前向きな変化」を引き出せることに手応えを感じているようです。

矯正歯科の難しさ

このように大きなやりがいのある矯正歯科ですが、「難しそう」という声もよく耳にします。
衛生士学校では矯正歯科についてあまり深く学ばないため、不安が大きいのかもしれません。

実際の矯正歯科の難しさは、主に次の2つでしょう。

・使う装置や器具の種類が多く、専門知識が必要
・患者さんに治療に対するモチベーションを維持してもらうために、コミュニケーション力が必要

でもこうしたことは、入職後にしっかり教えてもらえるので心配いりません。

というのも、矯正歯科は一般歯科と比べて、急患が入ることが少ないです。
そのため、診療時間に余裕があり、新人教育の時間をきちんと取っている職場が多い傾向があります。
スキルや知識に自信がない人も、ぜひ安心して飛び込んでほしいと思います。

矯正歯科を取り巻く環境の変化

私が歯科衛生士の求人に関わり始めたのは13年ほど前ですが、そのころと比べると、矯正歯科が格段にメジャーになっている実感があります。

例えば、歯科衛生士を目指したきっかけを聞いたときに、「自分が矯正治療を受けたこと」という答えが返ってくるケースが非常に増えました。
「矯正に関われること」を就職先選びの条件にしている人も多く、矯正歯科が人気の職場になっていることに驚きます。

また、矯正歯科に対する歯科業界全体の理解も、かなり深まっていると感じます。
矯正治療は、“見た目を整えるための治療”と誤解されがちですが、
「歯並びを良くすることで口腔ケアをしやすくし、虫歯や歯周病を防ぐ」
という効果や、先ほど見たように
「子どものころから予防的な矯正をすることで、口腔や全身の正しい成長に導く」
という側面が注目されるようになり、社会の中で、矯正治療の重要性の認識が高まっています。

今後、矯正歯科への需要はますます高まると予想され、年々新しい治療方法や考え方も生まれています。
経験を重ねても学びが多く、常に新鮮な気持ちで働ける分野と言えるでしょう。

矯正歯科での歯科衛生士のキャリア

矯正歯科に関わりながら歯科衛生士としてのキャリアを積んでいくには、大きく2つの方向性があります。

とにかく専門性を高める

一つは、矯正歯科をとことん突き詰めることです。
セミナーなどに参加して知識を学んだり、学会の認定資格を取得したりすることによって、矯正歯科の専門性を磨くことができます。

こうした道を目指す人は、矯正専門医のいる歯科医院や、より多くの症例に触れられる「矯正専門」の歯科医院を選ぶと良いでしょう。

プラスアルファで矯正を強みにする

もう一つの方向性は、一般的な衛生士業務を身につけつつ、「矯正歯科も」できる歯科衛生士を目指す道です。
その場合は、一般歯科と矯正歯科の両方を提供している歯科医院を選ぶと良いでしょう。

なお、「矯正もできる一般歯科」の中には、
「月に1回だけ矯正担当医が来院し、普段は一般歯科が中心」
という“一般歯科寄り”の職場から、
「常勤歯科医師の中に矯正専門医がおり、希望すれば矯正担当歯科衛生士として働ける」
という“矯正専門医院寄り”の職場まで、さまざまなケースがあります。

診療科目に「矯正歯科」と入っているだけで判断せず、実際にどの程度矯正歯科に関われるのか、見学や面接などでしっかり確認しておくと、入職してからがっかりすることが防げます。

まとめ:どんな人が矯正歯科に向いている?

矯正歯科について、理解が深まったでしょうか?

ここまで見てきたことをまとめると、矯正歯科には、

・患者さんと長期間にわたって信頼関係を築きたい人
・職人的な細かい作業が好きな人
・歯科衛生士として、自分の“得意分野”をつくって究めたい人
・患者さんの“変化”に寄り添いたい人
・自分自身に矯正経験があり、患者さんの気持ちがわかる人

などが向いていると言えそうです。

「矯正歯科って、なんだか難しそう」
「学校で習わなかったからやめておこう」
と敬遠するのではなく、興味が湧いた人は、ぜひ矯正歯科へ見学に行ってみてください。


ヤナギ

ライター、インタビュアー

2010年よりクオキャリアのさまざまな媒体で歯科医師・歯科衛生士の取材や、求人原稿・インタビュー記事の執筆など、のべ6,000件以上を担当。歯科業界の採用事情に精通している。

 

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