診療分野を知ろう!〈訪問歯科編〉|歯科衛生士知っとこ!職場の見極め塾#25

こんにちは!ライターのヤナギです。 これまでに10年以上、クオキャリアでたくさんの歯科医院を訪問したり、記事を執筆したりしてきました。
その経験から、歯科衛生士の皆さんに「自分に合った職場を選ぶためのヒント」をご紹介します。

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注目度急上昇中!の「訪問歯科」

この連載のLesson 6で、歯科医院の「診療科目」や「診療分野」について解説をしました。
「訪問歯科」は、歯科が標榜できる4つの診療科目には含まれませんが、医院のホームページなどで案内されていることが多い「診療分野」の一つです。
※歯科が標榜できる4つの診療科目:歯科、小児歯科、矯正歯科、歯科口腔外科

また、求人情報でも“訪問歯科スタッフ募集”などの形で目にすることがあるでしょう。

そこで今回の記事では、訪問歯科と外来診療の違いや、訪問歯科での歯科衛生士の働き方の特徴などを詳しく見ていきたいと思います。

そもそも、「訪問歯科」って?

まずは、訪問歯科の概要を説明しましょう。

訪問歯科の定義

訪問歯科(訪問歯科診療)とは、歯科医院に通うのが難しい患者さんに対して、自宅や施設を訪問して歯科診療を行うことです。
この場合の「施設」とは、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、障害者支援施設、グループホームなど、患者さんの“生活の場”を指します。
また、保険診療の場合、訪問先は、歯科医院のある場所から半径16km以内の範囲と決められています。

なお、訪問歯科とほぼ同じ内容を「往診」と呼ぶことも多いです。
ただし、訪問歯科のうち、「往診」は急患などのイレギュラーな訪問、「訪問診療」はあらかじめスケジュールを立てた訪問と、区別して考える場合もあります(医科では明確に区別されています)。

訪問歯科のスタッフ構成

診療の際には、歯科医師、歯科衛生士、コーディネーターの3職種がチームで訪問するのが標準的です。
また、歯科医師の指導の下、歯科衛生士が単独で訪問して口腔ケアや指導を行うことも認められています。

訪問先が自宅の場合は少人数で訪れることが多いですが、施設の場合は、歯科衛生士が複数名で訪問する場合もあります。

訪問歯科の患者層

外来診療では乳幼児から高齢の方まで幅広く診ることが多いですが、訪問歯科の対象となる患者さんは、主に高齢の方や障がいのある方です。
日本社会の高齢化が進むに伴い、これからますます需要が高まる分野だと言えるでしょう。

訪問歯科の歯科衛生士の働き方

歯科衛生士が訪問歯科に携わる場合、次のようないくつかの働き方があります。

  1. 曜日や時間によって、訪問診療と外来診療を兼任する働き方
  2. 医院としては外来診療と訪問診療の両方を行っているが、訪問診療だけを専門的に担当する働き方
  3. 医院として訪問診療しか行っていない、訪問専門の歯科医院に勤務する働き方

これ以外に、数は少ないですが、介護施設に常駐するという働き方もあります。形式としては訪問歯科ではありませんが、仕事内容などは訪問歯科と多くの特徴が共通しています。

訪問歯科での歯科衛生士の役割

訪問歯科における歯科衛生士の役割は、主に次の5つです。

口腔ケア

外来診療と同様に、歯石の除去などのクリーニングを行います。
また、寝たきりの患者さんや機械的な処置が難しい患者さんの場合には、ガーゼで口腔内を拭ったり、口腔内のマッサージをしたりすることもあります。
「将来の疾患の予防」というよりも、「現在を快適に過ごすため」という意味合いが、外来と比べて大きいでしょう。

患者さんとのコミュニケーション

訪問診療の対象となる患者さんは、外出が難しい方が多く、歯科スタッフが訪問すること自体が刺激や喜びとなっていることもあります。
そのため、世間話やスキンシップなどのコミュニケーションが、外来以上に大切になります。

摂食・嚥下トレーニング

訪問診療では、咀嚼や飲み込みに困難を抱えている患者さんも多いため、摂食・嚥下のトレーニングを行う機会が多いです。

治療のアシスト

外来と同様に、虫歯治療や義歯治療などのアシストも、歯科衛生士が行います。

施設スタッフやご家族への指導

訪問歯科では、患者さんご本人に対してだけでなく、介護をしている方へのブラッシング指導や食生活の指導も重要な業務です。

訪問歯科における歯科衛生士の働き方の特徴

歯科衛生士が訪問歯科で働く場合には、外来診療と比べて次のような特徴があります。

育児や家庭と両立して働きやすい

訪問歯科は外来診療と比べて、育児や家庭と両立して働きやすいと言われています。
その理由は2つあります。
1つは、外来よりも非常勤で働きやすいことです。
訪問歯科は原則として訪問のスケジュールがあらかじめ組まれているため、「月曜日だけ」「午前中だけ」など、曜日や時間を限定した働き方がしやすいのです。
2つ目の理由は、終業時間が早めなことです。
ご自宅や施設を訪問するという特性上、17時台に終業というケースも珍しくありません。
そのため、常勤勤務であっても早めに退勤できることが多いです。

歯科以外の職種と関わる機会が多い

介護士、ケアマネジャー、看護師、理学療法士や言語聴覚士といったリハビリスタッフなど、歯科以外の職種と関わる機会が多くあります。

患者さんのご家族と関わる機会が多い

先ほどの「歯科衛生士の役割」とも重なりますが、患者さんご本人だけでなく、介護を担っているご家族とのコミュニケーションが重要なことも、訪問歯科の特徴です。

職種間の風通しが良い

「院外に出て、チームで診療を行う」という仕事の性質上、職種の壁を越えて、スタッフ間の距離が近くなる傾向があります。
その一つの表れとして、「診療の合間にみんなで外食をするのが楽しみ」と話す先輩も多いです。

訪問歯科のやりがい

ここまで見てきたように、訪問歯科は、外来診療とは異なる点が多くあります。
そしてその分、他の分野にはない次のようなやりがいを感じられます。

  • 寝たきりの患者さんも多いため、口の中がさっぱりすることだけでなく、訪問したこと自体に対しても、とても喜んでもらえる。
  • 場合によっては終末期のケアに関わるケースもあり、「その人らしい最期」を迎えられるようお手伝いすることができる。
  • 自宅を訪問する場合、ご家族に感謝してもらえたり、介護の負担を軽くできたりする。
  • 施設を訪問する場合、歯科スタッフが常勤で在籍していないことが多く、「口腔の専門家」として頼りにしてもらえる。

訪問歯科の難しさ

一方で、訪問診療特有の次のような難しさもあります。

  • 患者さんご本人との意思疎通が難しい場合もあるため、小さなサインから気持ちを読み取るなど、きめ細かな対応が必要になる。
  • 他職種やご家族など、さまざまな立場の人と信頼関係を築くことが大切なため、外来以上にコミュニケーション力が問われる。
  • 診療に使う機材やスペースなどに制約がある。
    →この点は、「あるものの中で工夫する」という面白さにもつながります。
    また、最近は機材も進歩しており、レントゲン撮影や根管治療など含め、院内と遜色ない治療を行えるようになってきています。
  • 摂食・嚥下分野や全身疾患、認知症などについての知識が幅広く求められる。
    学校ではあまり習わない内容なので、自分から積極的に学ぶことが必要。
    →こうして得たスキルは、歯科衛生士としての強みにもなります。

訪問診療にはこうしたさまざまな難しさがあることから、「新卒でいきなり訪問専任」というケースは実際には少なめです。
まずは外来診療(もしくは外来と訪問の兼任)で基本を学んでから、希望次第で訪問専任になる、というケースが多いようです。
見学や面接の際には、「訪問歯科に興味がある」という意思を伝えた上で、働き方やキャリアステップについて確認しておくと良いでしょう。

どんな人が訪問歯科に向いている?

訪問歯科は、次のような人にオススメです。

  • お年寄りと接することが得意/好きな人
  • いろいろな立場の人と一緒に働きたい人
  • 臨機応変な対応が得意な人
  • 育児や家庭と両立しながら働きたい人
  • 「働く場所が毎日違う」など、環境の変化が好きな人

なお、自動車の運転免許が必要かどうかは、職場によって異なります。
コーディネーターや専門の運転手が運転を担当するため、歯科衛生士は運転免許がなくてもOK、という場合も多いです。

まとめ:訪問歯科は将来性の高い分野

社会の高齢化が進む中で、訪問診療は、今後必ず需要が高まる分野です。
これまでは外来診療だけを行っていた歯科医院や医療法人の中にも、訪問歯科に力を入れるところが増えてきています。

また、患者さんの「命」に直接関わる場面も多く、医療職としてのやりがいを肌で感じられる分野でもあります。

さらに、女性のライフステージに合わせた働き方もしやすいので、新卒や転職のときだけでなく、出産・育児を経て復帰を考える際にも、ぜひ訪問歯科を視野に入れてみてほしいと思います。


ヤナギ

ライター、インタビュアー

2010年よりクオキャリアのさまざまな媒体で歯科医師・歯科衛生士の取材や、求人原稿・インタビュー記事の執筆など、のべ6,000件以上を担当。歯科業界の採用事情に精通している。

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