「歯科衛生士は将来性のある仕事」ってホント? 歳をとっても続けられる?

歯科衛生士という職業を選んだ理由として、「長く働き続けられるから」という理由を挙げる人はとても多いです。
一方で、「歯科衛生士の仕事って、歳を取っても続けられるのかな?」「今後もずっと、必要とされる仕事なんだろうか?」と、漠然とした不安を抱いている人もいるでしょう。
そこで今回は、“歯科衛生士の将来性”にスポットを当てて、解説をしていきます。

「仕事内容」から見た、歯科衛生士の将来性

まずは、歯科衛生士の仕事内容の面から、将来性について見ていきましょう。

歯科衛生士の業務内容は、「歯科予防処置」「歯科保健指導」「歯科診療補助」の3つ。
その中でも特に「歯科予防処置」「歯科保健指導」の2つを通して、患者様のお口の健康維持、つまり“病気の予防”をサポートすることが、歯科衛生士の仕事の要です。

また、医療にはさまざまな分野がありますが、口腔内を専門的に扱う“歯科”と、全身を扱う“医科”に分けて考えることがあります。
言うまでもないことですが、歯科衛生士が主に関わるのは、この2つのうち“歯科”です。

つまり、「予防」と「歯科」の二つが、歯科衛生士の仕事を考える上で重要なキーワードと言えます。

社会全体が「予防」にシフトしている

キーワードの一つ目、「予防」の将来性について考えてみましょう。

現代は“人生100年時代”とも言われ、衛生環境の改善や医療の発展などによって、人々が長く生きられるようになりました。
それに伴って、「ただ長生きする」だけでなく「健康に過ごす」という意識が高まっています。

また、日本では少子高齢化が進み、医療・介護費の増大や、医療・介護の担い手不足が、大きな課題として挙げられています。

こうしたことを背景に、「病気になってから治療する」のではなく、「病気になる前に予防しよう」という流れが年々大きくなっています。
そして国家政策としても、いわゆる“健康寿命”を延ばすための取り組みが積極的になされています。

参考:厚生労働省「スマートライフプロジェクト」

「予防」に対する社会のニーズは、今後ますます高まると考えられます。

「歯科」の重要性に対する認識が高まっている

こうした予防医療へのシフトの中で、「歯科」、特に「口腔ケア」の存在感が増しています。
主に次の2つの観点から、歯科への注目が集まっているようです。

・きちんと噛める口腔環境を維持することで栄養がしっかり摂れ、全身の健康につながる
・歯周病は糖尿病や心疾患などの病気と密接に関係しており、歯周病の予防が全身疾患の予防につながる

実際に、 “口腔の健康”と“全身の健康”に密接な関係があることは、さまざまな研究で明らかにされています。

【参考】
https://www.jda.or.jp/pdf/ebm2015Ja.pdf
https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/070/040/01.html#05

しかし実は現在、企業などに義務付けられている健康診断には「歯科健診」が含まれていません。
そこで、2022年には「国民皆歯科健診」の導入が政府の方針に盛り込まれました。

「歯科」、特に「予防歯科」の重要性への社会的な認知は、今後も引き続き高まっていくと予想できます。

国としても、歯科衛生士の存在を重要視している

ここまで見てきたように、近年の健康志向の中で、「予防」、特に「予防歯科」の重要度が増しています。
そして最初に書いた通り、「予防歯科」は、歯科衛生士の中心的な業務です。

そこで、国としても歯科衛生士の就業のバックアップに力を入れており、2017年からは「歯科衛生士に対する復職支援・離職防止等推進事業」が実施されています。

★日本歯科医師会 歯科衛生士の復職支援事業

「求人の状況」から見た、歯科衛生士の将来性

次に、「働く場(特に、働きやすい場)が確保できるのか」という面から、歯科衛生士の将来性を見ていきましょう。

歯科医院の数はコンビニより多い

現在就業している歯科衛生士は全国に約14万人おり、そのうち約9割の人が、歯科診療所(いわゆる“歯科医院”や“歯科クリニック”)で働いています。

参考:厚生労働省 令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況

歯科診療所は全国に68,000軒ほどあり、実は驚いたことに、コンビニよりも多いのです。
そしてその数は、過去数十年を見ても大きな変動なく推移しています。
「歯科衛生士の働く場」は、たくさんあるということがわかるでしょう。

参考:厚生労働省 令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況

また、歯科診療所は日本全国どこにでも存在するため、たとえばパートナーの転勤などで引っ越すことになっても、働く場所が見つかりやすいというメリットもあります。

新卒の求人倍率は20倍以上

歯科衛生士の養成校を卒業し、国家試験に合格して新しく歯科衛生士になる人は、毎年7,000人前後です。
そしてその7,000人の“新卒歯科衛生士”に対して集まる求人は、なんと約14万人分。
一人の新卒歯科衛生士に対して、約20件もの求人が集まる計算になります。

*一般社団法人 全国歯科衛生士教育協議会「歯科衛生士教育に関する現状調査の結果報告」(令和3年度調査)より当社にて作成

この数字からは、「歯科医院で必要となる歯科衛生士の数に対して、実際の歯科衛生士の数が足りていない」ということがよくわかります。
既卒の場合は新卒ほどの倍率ではありませんが、歯科衛生士の就職は“売り手市場”だということは間違いありません。

先ほど見てきた「予防重視」の傾向も追い風となり、今後も、歯科衛生士が就職しやすい状況が続くと考えられます。

法人化率が高まり、就業環境が向上している

歯科衛生士の「働く場」はたくさんあり、就職や転職にはあまり困らずに済みそうだ、ということがわかりました。
ところで、「働きやすさ」についてはどうでしょうか?

歯科衛生士の「働きやすさ」、つまり、「就業環境の良さ」の目安の一つとなるのが、「職場の組織が医療法人化しているかどうか」です。

たとえば、個人経営の歯科医院では、スタッフ数によっては厚生年金や健康保険などの社会保険への加入は義務ではありません。
しかし医療法人ではスタッフ数に関わらず社会保険への加入義務があるため、医療法人化されていれば、最低限の福利厚生が整っていると判断できるのです。

かつて歯科診療所は小規模なところがほとんどで、2000年時点では、個人で経営している診療所が9割近くという状況でした。
ところが現在は、歯科診療所の23%は、医療法人が経営母体です。
よって、歯科衛生士の就業環境は向上してきていると考えられるでしょう。

厚生労働省「医療施設動態調査」(平成12~令和3年)より当社にて作成

参考:厚生労働省 平成12年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況

また、前の項目で説明したように、現在は歯科衛生士の数が必要とされている数に足りず、歯科医院側が、「ぜひうちに就職してほしい!」と、歯科衛生士の取り合いをしている状況です。
そのため歯科衛生士に選んでもらおうと、残業を減らしたり、就業規則を整えたりと、より「働きやすい」環境を整えようとする動きも見られます。

「働きやすさ」という面でも、歯科衛生士の「将来性」には、明るい見通しが持てそうです。

「働ける年齢」から見た、歯科衛生士の将来性

次に、「本当に、歳を取っても働けるのか」という面から、歯科衛生士という仕事の将来性を考えてみたいと思います。

歯科衛生士の資格は更新不要で、年齢制限もない

2023年現在、歯科衛生士の国家資格に更新の必要はなく、一度国家試験に合格すれば、一生「歯科衛生士」でいることができます。
また、歯科衛生士という資格を使って仕事をすることに、年齢制限もありません(それぞれの職場で「定年」が設けられていることは多いです)。

結婚や出産で一時仕事を離れたとしても、仕事に復帰しやすく、長く働きやすい職業といえるでしょう。

50歳以上の歯科衛生士も多く活躍している

実際に、多くの歯科衛生士が年齢を重ねても活躍しており、ベテランの歯科衛生士の数は年々増加しています。
2020年の就業歯科衛生士の年齢構成を見てみると、50歳以上の歯科衛生士が全体の約4分の1を占めています。

参考:厚生労働省 令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況

そうは言っても、歳を取ると、視力や体力、手先のコントロール力などが低下して、診療が続けられなくなるのでは?という不安を持っている人もいるかもしれません。

でも実は、歯科衛生士の活躍の場は、臨床だけではありません。
自治体での保健指導や、歯科衛生士養成校での指導、後輩の育成など、さまざまな形で働いている先輩がたくさんいるのです。

こちらもチェック!
口腔衛生に関わるカタチはいろいろ[歯科衛生士のキャリアと働き方]

仕事の「やりがい」も、一生モノ

歯科衛生士は、患者さんと向き合った分だけ、スキルや知識が着実に積み上がる仕事です。
年齢を重ねたことによって、若いころにはできなかったことができるようになったり、新たな視点が生まれたりもするはずです。

また、医療の世界は日々進歩していますから、「これ以上は学ぶことはない」という限界はなく、常に成長し続けられる仕事でもあります。

「仕事のやりがい」という意味でも、歯科衛生士は、生涯を通して充実感を味わえる職業だと言えるでしょう。

「AI(人工知能)との関係」から見た、歯科衛生士の将来性

医療の分野でも、さまざまな面でAIの活用が期待されています。
その主な活用方法は、以下の2つです。

<診断の補助>
医師や歯科医師が診断を行う際には、さまざまな症例の情報や医学的な知識を参考にしています。
大量の情報や知識を扱って分析するのはAIが得意とする作業なので、診断の補助にAIを活用できると考えられています。

<業務の効率化>
カルテの入力や管理をはじめ、事務作業の一部をAIに任せることで、業務の効率化が図れると期待されます。

参考:
https://www.med.or.jp/doctor-ase/vol31/31page_id03main7.html
https://jdai.or.jp/dent-plus-ai/
https://ssl.opt-net.jp/AI-plan.php

「人間的なコミュニケーション」はAIでは代替できない

一方で、医療従事者の業務の中には、AIが苦手とするものもあります。
その代表的なものが、「患者さんとのコミュニケーション」です。

相手の気持ちや性格に合わせて臨機応変に対応したり、声かけや表情などを通して安心感を与えたりすることは、当面の間は、人間にしかできない仕事であり続けるでしょう。

そしてこの「患者さんとのコミュニケーション」は、歯科衛生士の役割の中で、一番大切な部分でもあります。
なぜなら、予防歯科のなかでも重要なカギを握るのはセルフケア。患者さん自身の気持ちを動かさないと、予防歯科は実現できないからです。
「意識変容」「行動変容」という言葉を聞いたことがある方もいるでしょう。

このように考えると、事務作業などの「誰にでもできる仕事」をAIに任せることで、「歯科衛生士にしかできない仕事」に、より多くの時間やエネルギーを使えるようになるかもしれません。

今のところ、AI技術の発達・普及が、歯科衛生士にとって脅威になることはなさそうです。

専門性を磨くことで、さらに“将来性”が高まる

ここまで見てきたように、歯科衛生士は、その資格を持っているだけで十分に「将来性」のある職業ですが、さらに専門性を磨いて自分の価値ややりがいを高めることもできます。

歯周病、インプラント、矯正など、特定の分野の深い知識や技術を身につけることで、
「この人に診てもらいたい」
「この歯科衛生士に、うちの医院で働いてもらいたい」
と、患者さんや歯科医院から求められる存在であり続けられるでしょう。

専門性を磨く方法としては、認定資格の取得が代表的です。
「歯科衛生士として長く活躍したい!」と考えている人は、ぜひ、認定資格の取得を検討してみてください。

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日本スポーツ歯科医学会認定スポーツデンタルハイジニスト(SDH)インタビュー

まとめ 歯科衛生士は将来性の高い仕事

ここまで、「仕事内容」「求人の状況」「働ける年齢」「AIとの関係」の4つの面から、歯科衛生士の将来性について見てきました。
どの側面から見ても、歯科衛生士という仕事は将来性が非常に高いことがわかったと思います。

これから就職活動をしたり、歯科衛生士として働いたりする中で、「本当にこの道を選んで良かったのだろうか?」という不安や疑問が生まれることがあるかもしれません。
そんなときには、ぜひ、この記事で紹介したことを思い出してみてください。
そして、「歯科衛生士は将来にわたって、社会に必要とされる大切な職業なんだ」という自信と誇りを持って、仕事に取り組んでいただければうれしいです。

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