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こんな歯科医師見つけました!その① 健康保険コンサルタント&データアナリスト 奈良夏樹先生 キャリア

こんな歯科医師見つけました!その① 健康保険コンサルタント&データアナリスト 奈良夏樹先生

開業医だけじゃない! さまざまな道で輝く歯科医師たち #2

歯学部卒業後の進路は、「開業医に就職」「大学に残る」だけだと思っていませんか?
実は、それ以外にもいろんな道があるんです!

特集第2回から4回は、実際にさまざまな道で活躍する歯科医師3人にインタビュー。
なぜ今の道を選んだのか、仕事のやりがいは何か、たっぷり話してもらいました。

第2回に登場してくれたのは、一般企業に就職し、歯科医師資格を生かして健康保険組合等のコンサルティングやデータ研究に従事する奈良夏樹先生。
「治療はしないけれど、数百万人を健康に導ける仕事」とは?

株式会社ミナケア
奈良 夏樹 先生

東京歯科大学卒業。都立健康長寿医療センター・地域診療所などで8年間高齢者・障害者診療などに従事。2013年3月に株式会社ミナケアに入社し、データ解析・保健事業コンサルティング・公衆衛生に関する研究に携わる。予防型歯科保健プログラム「デンタルIQチェック」を開発。

「病気になる人を減らす」方法を考える仕事

奈良先生が現在勤める株式会社ミナケアは、保険者(健康保険組合など)へのコンサルティングをメイン事業とする会社。事業は医療分野全体にわたっているが、奈良先生はその中の歯科に関する部分を一手に引き受けている。

「私の仕事をひとことで言うと、『患者さんに早期受診してもらうための方法を考える』ことです。一般的にみなさんが受診するときは、何らかの自覚症状と意志があって、初めて行動を起こしますよね。つまり、受診するかどうかは本人の判断だけに委ねられているんですが、決してそれが医療的にベストなタイミングとは限りません。定期健診で悪いところが見つかったのに病院に行かず、受診したときにはもうずいぶん進行している……ということも多いんです。

でも、病気になればそのとき自分が治療費を払えばいいだけ、というわけにはいきません。なぜかというと、治療にかかったお金は同じ保険に加入している“同僚”が負担しているから。国が医療費を出してくれていると誤解している方が多いですが、現役世代の医療費には国からのお金は降ってきません。なので、耐えられないほどひどくなってから受診する人が増えると、保険に加入している人みんなで負担している『保険料率』が増えてしまうんです」

そこで、皆さんからの保険料をとりまとめている保険者(健康保険組合など)に対し、加入者の健康管理を促す提案するのが奈良先生の仕事だ。

「症状が悪化してしまう前に早期受診を促したり、健康指導ができれば、重症な人を減らせるはず。その役割ができるのは、保険料を運用し、健康診断やレセプトのデータを持っている保険者です。

私の仕事は、データから患者さんの健康状態を割り出し、『この日から受診していないということは、治療が途中で終わってしまっているな』『フッ素を使っていないから、虫歯のリスクが高くなっているな』といったことを解析することから始まります。解析結果がそろったら、保険者に『これらの方は、血糖値が経年でだんだん上昇してきている。また、歯科治療を中断している。食事指導とともに、歯科受診を促してください』というような内容を、人数ベースで提案します。その後、健康診断の結果がどう変わったか、受診しているかをずっと追っていく。そのように健康を守るコンサルティングをしています」

そして、このコンサルティングの過程で集まった膨大なデータを使って、企業や大学などと一緒に研究するのも、もうひとつの大きな仕事だ。

「公衆衛生学の分野に、大学に所属せずに関われるなんて、ちょっと驚きですよね。最近では、サンスター株式会社さんと共同で、血糖値と残存歯数の関連性を研究しました。それまで高血糖が口腔状態の悪化につながることは知られていましたが、実際に血糖値と歯の数を調べた研究はなくて。というのも、これまでの公衆衛生の研究は、サンプルから全体像を推測するしかなく、非常に手間がかかりました。でも、ミナケアが持っている数百万人分のビッグデータを使えば、全数の解析ができ、その先には未来予測もさまざまな試行錯誤も可能になる。そうやって、これまでの医療業界ではできなかったデータ研究の発展にも貢献したいと思っています」

予防医療は、すべての人に平等であるべき

「もともと私は歯科診療所の家に生まれ育ちました。歯科医師である父は、何よりも臨床を大切にするタイプ。その考えに影響を受けて私も臨床の道に進もうと思い、歯学部を卒業した後は、さまざまな患者さんを診ることができる東京都老人医療センター(現・東京都健康長寿医療センター)の口腔外科で臨床研修を受けました」

そこで目の当たりにしたのは、あまりに「悲しい」状況だった。昔に入れたインプラントが原因で広範囲に細菌感染を起こしている人、たくさんの歯の治療歴はあるけれど食事ができない人……。病気になる都度、そのとき最善の治療を実施しているはずなのに、ふりかえると結果に疑問がわく。そのような患者さんを診る中で、「病気にさせないためのアプローチ」、つまり予防歯科の重要性を痛感するようになった。

「歯の病気の多くが歯ブラシと食事で予防できるもの。それなのに、歯科医師は発症してからが本領発揮、なんておかしいですよね。その場その場の対症療法を積み重ねていても、いつか破綻してしまう。だったら、悪くなる前に介入することが、歯科医師が最も注力するべきことなのではないかと考えたんです」

臨床研修後は、半年ほどいろいろな歯科医院を回ったあと、実家の歯科医院で臨床に取り組んだ。毎日多くの患者さんの治療をし、治療が終わったら予防につなげる。大きなやりがいがあったが、「病気になってから受診する」という仕組みへの問題意識は変わらず持ち続けていた。また、受診しない人に対しては歯科医院側からは何も行動を起こせないことに、もどかしさも感じていたという。

「今の歯科界では、『予防』に重きを置くか、『治療』に力を入れるかは、歯科医院それぞれの経営判断にかかっています。つまり、患者さんが自分の歯を守れるかどうかは、どの歯科医院に行き、どんな歯科医師に出会えたかで決まってしまうということです。でも本来『予防』というのは、利益や運に左右されるものではなく、社会の仕組みとしてすべての国民に介入すべきもの。そして、健康保険制度はそのためにあるべき。それが、私の出した答えでした」

そんなとき、ミナケアの代表が主宰していたゼミを知り、参加してみることに。そこは、医療制度のあり方などについて、さまざまな立場の人が集まってディスカッションをする場だった。

「当時ミナケアは立ち上がったばかりでしたが、『病気にさせない医療の実現』というビジョンに大きな魅力を感じて。そこから、インターンとして診療の休日に勤務するようになりました。正社員としての入社も視野には入れていましたが、臨床から離れることや、働き方を大きく変えることへの不安も大きかったので、なかなか踏み切れなくて。1年ほど、悩みながらインターンを続けていました。数字や統計学は苦手で、向いていないと自覚しながらの挑戦でした」

「患者を診る」方法は、臨床だけじゃない

そんな奈良先生がミナケアへの正式な入社を決めた一番の理由は、「予防型の社会の仕組みをつくりたい」という目標をどうしても諦められなかったからだった。

「現状の課題とその解決方法に気づいてしまった以上は、やるしかない!という気持ちでした。また、私には歯科医師の兄弟がいるので実家を継ぐ必要はなく、親も健在で、奨学金の返済もなく……と、挑戦できる環境に恵まれていたことも後押しになりました。年齢的にも30歳になる前で、チャンスがあるなら自分がやらなければという思いが強かったです」

今の歯科界では、「臨床を離れる=歯科医師を辞めた」と思われがち。しかし、奈良先生自身はまったくそのつもりはないという。

「たしかに直接患者さんを治療しているわけではないですが、日々扱っているデータの向こうに、患者さんの“生活”がしっかり見えています。『このレセプトの、この治療をしたということは、患者さんはこういう状態なんだろうな』と、具体的な“手触り感”を持ってイメージできるんです。それは、歯学部卒業後の8年間、臨床に真摯に取り組んできたからこその強みだと思っています」

そして、実際に治療をしなくても「患者さんを健康にできた」と実感できる瞬間がある。

「データを解析し、保険者とともにアプローチをした結果、『加入者の血糖値が下がった』『予防目的での歯科の受診率が上がった』といった成果が出たときには、震えるほどうれしいです。何百万人もの人に正しい知識を届け、行動を変え、結果として、ひとりひとりの疾患リスクを減らす。これはまぎれもなく“歯科医師”の仕事ですし、臨床で味わえる達成感と同じものがあります。対面ではないけれど、数百万人からの『ありがとう』をもらっていると言っても良いかもしれません。そのくらいに、“患者さんを診ている”という感覚を持っています」

医療の世界、とりわけ歯科界では、ビッグデータの重要性がまだほとんど理解されていない。しかし、これからの公衆衛生の研究や取り組みは、ビッグデータが引っ張っていくと奈良先生は考えている。

「日本は皆保険制度のもとで、健康診断という“模試”と、医療費という“結果”の両方が全国民分そろっているという、国際的に見ても珍しい“国家資産”があります。この貴重なデータベースが持つ重要性や可能性を、歯科界内部にも社会にも、もっと発信していく必要があると感じています」

奈良先生の1年間の仕事スケジュール

1~6月 新しいクライアントへの営業や、翌年度のデータ解析に向けた準備に充てる時期。たとえば「仮歯を入れた段階で通院をやめてしまった人」を割り出すにはどうすればいいかを考え、新しいデータの組み合わせや解析方法を編み出していく。
7~8月 前年分の健康診断データ・レセプトデータがそろい始め、徐々に解析を進めていく。
9~12月 解析から浮かび上がった事実をもとに「昨年はこんな傾向があるので、来年はこんな策を取っていきましょう」というストーリーを作り、クライアントに提案する。

キャリアにブレーキをかけても、良い目標は手放さない

奈良先生が当社への入社を決めたのは20代の頃。そこから10年が経ち、今は3歳と5歳の子どもを育てながら、在宅勤務を組み合わせながら時短勤務をしている。

「正直なところ、会社員として働くことと育児の両立はものすごく大変です。『アルバイト臨床を週2日くらいやりながら子どもを育てられたら楽だろうな』いう甘いささやきが頭をよぎることも、仕事に100%の力を注げない悔しさに苦しむときもあります。けれど、もしせっかく見つけた自分の目標を諦めてしまったら、5年後、10年後にきっと後悔すると思うんです。だから、なんとか、周囲に迷惑をかけながらも頑張らせてもらっています」

ライフステージの変化とキャリアの両立。悩む人の多いこのトピックを、奈良先生はどうとらえているのだろうか。

「人生にはプライベートも含めて波があって、キラキラとチャレンジできるときも、思うようにいかないときもやってきます。でも、その中で大事なのは、良い目標は手放さないことだと思います。目標に向けた歩みにアクセルとブレーキがあったとして、ブレーキの時期に差し掛かったら、それを認めるしかないんですよね。

進むことを“やめる”のではなくて、“スピードを抑える”。そうとらえて、ふがいない自分と折り合いをつけながら、目標は忘れずに持ち続けることが大切だと思います。『ガンガン進んでいくだけがキャリアじゃない』ということは、これから社会に出る歯科医師の皆さん、特に女性の方にはぜひ伝えたいです」

今、奈良先生が取り組んでいる仕事は、歯科医師のライセンスが必須なわけではない。しかし、歯科医師としての経験や知識は確実に生きている。

「歯科医師は資格職ではありますが、資格は仕事を狭めるものではないはず。『歯科医師としての自分の価値』は、自分で削り出すものではないでしょうか。誰かが歯科医師向けの仕事を用意してくれるのを受け身で待つのではなくて、歯科知識を基に自分で考え、自分が貢献できる社会課題を見つけることが大事です。それができれば、人生をかけて達成したいと思える良い目標がきっと見つかるはず。皆さんのこれからの歯科医師人生が、素敵なものになることを願っています!」

企業で働く歯科医師の仕事データ(株式会社ミナケアの場合)

初任給 一般的な新卒初任給(平均23万円)と同等。専門職手当が出る可能性も。
賞与 年1回
勤務時間 フレックスタイム制(コアタイム 10:30~15:30)
休日 完全週休2日制(土、日)、祝日。そのほか夏季・冬季休暇、特別休暇も。

「医療は“診療所でできること”に限定されがちですが、決して治療だけが医療ではないと思います。たとえば、“おやつの与え方”を教えることだってひとつの医療の形。そういった広い意味での医療を社会に伝えていきたいです」と奈良先生。

歯科医師という仕事のあり方をもっと広い視野でとらえてみると、自分にとって新しい働き方が生まれてくるかもしれません。

次回は、国立の研究所で口腔疾患の研究に携わる先生にインタビュー。どうぞお楽しみに!

文/柳原梢子

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