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私の仕事は、患者さんを幸せにするための“ちょっとしたお手伝い”――歯周病科 若林健史先生 キャリア

私の仕事は、患者さんを幸せにするための“ちょっとしたお手伝い”――歯周病科 若林健史先生

歯学部生がスペシャリストに聞く! 各専門分野のシゴト事典 #6

補綴科、矯正科、保存科、口腔外科、小児歯科、インプラント科…ひとくちに“歯科”といっても、その中にある専門分野はたくさん。
将来は何かに特化した歯科医師になりたいけれど、どの分野を選ぶべきか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

そこで本特集では、さまざまな専門分野で活躍する“スペシャリスト”に歯学部生エディターズがインタビュー!
これまでどんなキャリアを歩んできたのか、その分野を究めるためにはどうすればいいのか、たっぷりお話を聞きました。

第6回のスペシャリストは、歯周病治療に特化した医院を経営する若林健史先生。
先生が「歯科医師は裏方の仕事」だと語る理由とは?

お話を聞かせてくれたのは…

若林 健史先生

オーラルケアクリニック恵比寿 若林歯科医院 院長

若林 健史先生

1982年、日本大学松戸歯学部卒業。都内の歯科医院に勤務後、1989年に代官山にて開業。2014年、現在の所在地へ移転した。講演活動、歯科医療者向け書籍の執筆、メディアでの発信などの実績も多数。日本歯周病学会理事、日本歯周病学会専門医・指導医、日本臨床歯周病学会認定医・指導医。

1982年、日本大学松戸歯学部卒業。都内の歯科医院に勤務後、1989年に代官山にて開業。2014年、現在の所在地へ移転した。講演活動、歯科医療者向け書籍の執筆、メディアでの発信などの実績も多数。日本歯周病学会理事、日本歯周病学会専門医・指導医、日本臨床歯周病学会認定医・指導医。

インタビューしたのは…

ゆーり

大阪歯科大学5年生

ゆーり

BRUSH歯学部生エディターズ。歯周外科治療ができる歯科医師を将来の目標にしている。スイーツ好きで、カフェめぐりが趣味。

BRUSH歯学部生エディターズ。歯周外科治療ができる歯科医師を将来の目標にしている。スイーツ好きで、カフェめぐりが趣味。

必要な治療をすることだけがベストなわけじゃない

ゆーり: 実は私自身、患者として歯周外科治療を受けたことがあるんです。インレーの不適合から、根管の骨が吸収されてしまって…。

若林: 根尖病巣ができちゃったんだね。

ゆーり: そうなんです。その経験もあって歯周病治療に興味を持ち始めたので、今日はとても楽しみにしてきました。はじめに、先生が取り組まれている歯周病治療の流れについて教えていただけますか?

若林: まず患者さんは主訴があって来られるので、痛みを取ったり義歯の調整をしたりして主訴を解決するところから始めています。それから歯科ドック検査で資料を採って、結果を分析した後、1時間半ほどかけて口腔状態についてしっかり説明する。そして初めて、歯周病の治療に入っていくという流れです。

ゆーり: 1時間半! かなり長くお話されるんですね。

若林: カウンセリングは歯周病治療の要なんです。ただ「歯磨きしてくださいね」って言っても、その理由までわからないと意味がないでしょう。普段の食事や生活背景まで踏み込んで聞いて、「ここが腫れているのはこういう理由だから、生活習慣の改善やブラッシング、歯周基本治療が必要ですよ」と伝えていくことが大事。虫歯も歯周病も生活習慣病だから、そこを変えていかないと治らないんですよ。

ゆーり: 患者さんに理解してもらうことが大切なんですね。その後はまず歯周基本治療を行うと思うのですが、外科処置を伴うケースも多いですか?

若林: だいたいの症例は歯周基本治療で治るのですが、どうしても歯茎を切らなければいけないケースも20%はあります。たとえば歯周基本治療をしても4ミリ以上のポケットが残ってしまったら、どういった治療をすべきかを判断して、必要であれば外科処置をする。ただ、患者さん自身が歯茎を切りたくないということもあるので、そういったときは進行させない方向に切り替えてサポートしていきます。

ゆーり: そうか、手術を受けたくない方もいらっしゃいますよね。

若林: はい。それから高齢の方に対しても、手術をすることが本当にベストなのか?と私は思うんです。歯周ポケットがあっても、ちゃんとメンテナンスして痛くなく噛めて、おいしい食事ができているんだったらそれでいいんじゃないかって。

ゆーり: たしかに、高齢の方には手術の負担も大きそうです。

若林: 8020運動で自分の歯が残っている人も増えましたが、100%良い状態で残っているとは限らないんですよね。でも、欠損があったとしてもしっかり噛めている人はいる。そんななかで、ここに歯がないから歯を入れましょうというのは歯科医師のエゴだと思うんです。歳をとると食事の内容も量も変わってくるし、そんなにガツガツ食べられなくてもいいじゃないですか。患者さんのライフサイクルに寄り添って、気持ちをくんだ歯科医療を実践したいと、この仕事を始めてからずっと考えています。

ゆーり: 歯科医師が良いと考える治療がベストではない…。

若林: そうです。誰のための歯科医療かということですよね。「治してあげている」んじゃなくて、「ちょっとしたお手伝い」。歯科医師ってそういう裏方の仕事だと思うんです。お口の中で困っていることに対して、最低限の医療介入で、最大限の効果を得られるようにする。それが、私にとってのフィロソフィーです。

ゆーり: 「ちょっとしたお手伝い」、印象的な言葉です。私も決して奢らず、患者さんを第一に考えていこうと思います!

歯周病治療は、すべての歯科治療のベース

若林先生の1日のスケジュール

月~土曜日 診療日。週に1度は分院であるオーラルケアクリニック青山へ。また日本大学松戸歯学部での実習指導も週1回行っている。
日曜日 学会出席や講演活動が中心。春・秋には3ヶ月ずつ自身が主宰する「目白歯周病学研究会」でのセミナーを実施。歯科衛生士向けの「歯周基本治療研究会」も定期的に行っている。オフは月1回程度だが、取材翌日はたまたま休みが合い、孫のお宮参りに付き添った。
院内で使用しているマニュアル
院内で使用しているマニュアル

ゆーり: 私が歯周外科を受けたとき、一度では完全に治らず再度処置をすることになり、難しい治療なんだなと思ったのですが、これまで先生にとって難しかった治療を教えてください。

若林: やはり、欠損の多いケースですね。特に上は右の歯だけ、下は左の歯だけ、のようになっている“すれ違い咬合”は難しい。咬み合わせを安定させたいけれど、歯周病で歯がグラグラになっているから補綴をしても残存歯に負担がかかってしまう…と、治療する上で考えることがたくさん出てくるんです。

ゆーり: 補綴など他の治療にも影響があるんですね。

若林: 土台がちゃんとしていないと鉄筋の建物を建てても倒れてしまうように、歯周病の状態でどんなに良い補綴物を入れても無意味なんです。だから、すべての治療のベースは歯周病治療だと言っても過言ではないと思いますよ。

ゆーり: 何事も歯周病治療ありき…。すごく包括的な治療なんだと実感します。難しい症例だと、大学病院に紹介することもありますか?

若林: はい。まずは、埋伏抜歯などの口腔外科治療を伴う場合。そして、全身疾患のある患者さんに歯周外科処置をするときですね。病気がある方の外科処置はリスクが高いので、医科と連携して全身管理できる環境で行う必要があるんです。それから、治療する部分が非常に多いけれども自費診療だと経済的に厳しいという患者さんも、大学病院に紹介することがあります。

愛用するライト付きの拡大鏡。これがないと診療できないほどに
愛用するライト付きの拡大鏡。これがないと診療できないほどに

ゆーり: 全身疾患のお話がありましたが、近年どんどん歯周病と全身疾患のかかわりが明らかになっていますよね。そういったなかで、気をつけていることはありますか?

若林: 脳梗塞や心筋梗塞、誤嚥性肺炎などかかわりのある病気はたくさんありますが、なかでも一番よく言われているのが糖尿病です。血糖値が高くなると白血球の動きが悪くなって、歯周病菌を倒せなくなってしまう。歯周病菌が増えると、白血球をたくさん送り込もうと歯茎の毛細血管に血液が集まる。その結果、歯茎が腫れて血がでるようになるというサイクルがあるんですよね。だから、定期検診でずっとピンク色の歯茎だった人がいきなり真っ赤な歯茎になると、糖尿病の疑いが出てくるわけです。

ゆーり: 口を診ただけで全身状態がわかるんですね!

若林: そうなんですよ。その方の既往歴を見ると、過去に糖尿病になっていたりするので、「血糖値が高くなっているかもしれないから検査してみてください」とお伝えして。実際に病院に行くと、本当に数値が上がっていることが多いんです。そこからは糖尿病の治療も内科の先生と連携してやっていく。今後は医科歯科連携もさらに重要になってくると思いますよ。

ゆーり: すごい! さまざまな面で、患者さんの健康を支えられる仕事なんですね。そのほか、これまで「治療をしてよかった」と思ったエピソードについて教えていただけますか。

若林: 印象に残っているのは、ある40代の女性。あまり外見に気を配らないタイプなのか、化粧などもしておらず目立たない方でした。さらに歯周病がかなり進行していたので気にされていて、いつもうつむき加減だったんです。そして少しずつ治療を進めて、土台が整ったところで上下にキレイな仮歯を入れた。すると、しばらくたったある日、待合室に見たことのないすてきな女性が座っているんです。

ゆーり: えっ、まさか…。

若林: スタッフに「今日、新患の予約入っていた?」と聞くと、「〇〇さんですよ」と。ものすごく驚きました。髪も染めて、化粧もして、キレイなお洋服を着て、そしてよく笑うようになって、まるで別人。歯に自信がついただけで人ってこんなに変わるんだと、心からうれしかったですね。

ゆーり: まさに人生が変わったんですね!

若林: それくらい歯は大切なんですよね。歯科医師っていい仕事だなと改めて思ったできごとです。

たとえ10年遅れても、必ず取り戻すことができる

若林先生の学生時代

サーフィン部に所属。「夏はサーフィン、冬はスキーをしたり楽しいよ」と言われて入部したら、実際は真冬でも海に入るような体育会系の部活だった。

そこで上下関係や辛い合宿を経験したことで、たいていのことではへこたれないように。今もOB会で集まったり、部活のつながりで勤務医を採用したりと、卒業後も仲間と良い関係を築いている。

ゆーり: ここからは、先生のご経歴についてお伺いします。先生が歯周病治療に興味をもったきっかけは何ですか?

若林: 大学卒業後に弟子入りした、歯科医師である叔父の影響です。叔父は歯周病治療がまだ確立されていない頃から、最先端の治療をアメリカで学んでいた人。当時から自費診療で、詳しい検査をしてカウンセリングでじっくり説明するスタイルを実践していました。それを見ていたので、私も開業するときは自費を取り入れて、ひとりひとりを丁寧に診ることにしたんです。

ゆーり: 時代を先取りされていたんですね。治療は日々の臨床のなかで学ばれたんですか?

若林: 臨床をしつつセミナーなどにも出て学んでいたんですが、実は55歳のときに大学院へ行き始めて。

ゆーり: 55歳で! 大学卒業時は臨床の道に進まれたんですものね。

若林: そうです。当時は開業医になるんだったら経歴も必要ないかなと進学しなかったけれど、大学院を出ている人たちを見ていると文献を読む力がすごいんですよ。エビデンスをきちんと求めているから、知識の精度が違うんです。やっぱり行けばよかったなと思っていたときに社会人大学院を知って、思い切って入学しました。

ゆーり: すごい行動力…!

若林: きちんと試験を受けて、55歳で1年生に。同じ学年の子はみんな自分の子どもくらいの年齢で、同級生の娘なんかがいるわけですよ。そして授業をしてくれる教授が後輩だったり。

ゆーり: それは教授の先生も緊張するでしょうね(笑)!

若林: 一番前の席で熱心に聞いているから、それはそれはやりにくそうでしたよ(笑)。でも、すごく楽しい大学院生活でした。もし余裕があるなら、将来のためにも大学院に行くのはいいかもしれないね。

ゆーり: 私は浪人して数年遅れているので大学院に行くべきか悩んでいたんですが、今のお話で勇気をいただきました。

若林: 長い歯科医師人生から考えたら、たとえ10年遅れていたって関係ないですよ。初めは出遅れても、ちゃんとやっていれば数年後に必ず追い越せるから。そんなに慌てなくて大丈夫。

ゆーり: はい、自分のペースで進んでいきます! 最後に、先生の今後のビジョンを教えてください。

若林: 開業時からずっと目指しているのは、「削らない歯科医院」。歯科衛生士のメンテナンスだけで、私は何も手を加えずに後ろで褒めるくらいの環境が理想ですね(笑)。それもあって、勤務医の先生にお任せしている青山の分院では、5台中4台を歯科衛生士用のユニットにしています。

ゆーり: 当時からの目標にどんどん近づいているんですね。先生のもとで学べば、本当に患者さんのためになる歯科医療が実現できそうです。勤務医の先生はほかにもいらっしゃるんですか?

若林: はい、みんな勉強したいと言って来てくれています。常勤で入るのが難しいときもあるのですが、非常勤だとしても自分の患者さんを最後まで責任もって診てもらうのが基本。開業するときも、担当の患者さんは連れて行っていいからねと言っています。

ゆーり: え! そう言ってくださる院長先生はなかなかいないと思います。

若林: もちろん、嫌がる院長先生も多いでしょうね。でも、長く経過観察することは患者さんのためでもあるし、歯科医師自身のためにもなるんです。20年たった患者さんがどう変化して、どこが悪くなっていくのか。それを学んでほしいから、積極的に送り出しています。

ゆーり: 今日お話を聞いて、先生の軸には「誰かのため」があるんだなと強く感じました。

若林: 周りの人たちが幸せで楽しい人生を送ってくれたら、それで私もハッピーになれますから。大変なことがあっても、誰かを幸せにするための試練だと思えばネガティブな気持ちにならない。そうやってサポートするのが、私の役目だと思っているんです。

ゆーり: 私も幸せの輪を広げられるよう頑張ります! 今日はありがとうございました!

インタビューを終えて

話を聞いてわかった! 歯周病科の仕事は…

生活習慣まで踏み込んだカウンセリングが必要

歯周病を治してこそ、補綴などの治療も進められる

全身状態の改善にもつなげることができる

先生のお話を聞いて、歯科医療のあり方について改めて考えることができました。私も患者さんの生活に寄り添う歯科医師になれるよう頑張ろうと思います!

6回にわたってお送りしてきた「専門分野のシゴト事典」。興味のある分野は見つかりましたか?

今後もBRUSHでは、さまざまなフィールドで活躍する先生のインタビュー記事を掲載する予定! 「こんな分野の先生のお話が聞きたい」という希望があれば、ぜひ教えてくださいね。

撮影/榊水麗 文/編集部

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