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“主訴がない”分野だからこそ、相手の想いを尊重する――訪問歯科 若杉葉子先生 キャリア

“主訴がない”分野だからこそ、相手の想いを尊重する――訪問歯科 若杉葉子先生

歯学部生がスペシャリストに聞く! 各専門分野のシゴト事典 #5

補綴科、矯正科、保存科、口腔外科、小児歯科、インプラント科…ひとくちに“歯科”といっても、その中にある専門分野はたくさん。
将来は何かに特化した歯科医師になりたいけれど、どの分野を選ぶべきか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

そこで本特集では、さまざまな専門分野で活躍する“スペシャリスト”に歯学部生エディターズがインタビュー!
これまでどんなキャリアを歩んできたのか、その分野を究めるためにはどうすればいいのか、たっぷりお話を聞きました。

第5回のスペシャリストは、在宅医療に特化した法人に勤務する若杉葉子先生。
先生が高齢の方とのコミュニケーションで徹底していることとは?

お話を聞かせてくれたのは…

若杉 葉子先生

悠翔会在宅クリニック 歯科診療部 部長

若杉 葉子先生

2004年、東京医科歯科大学卒業。同大学大学院高齢者歯科学分野修了後、医員、非常勤講師を経て助教を務めた。2017年に在宅医療に特化した医療法人社団 悠翔会に入職。法人唯一の歯科部門に所属し、広エリアの歯科診療を担う。日本老年歯科医学会指導医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士。

2004年、東京医科歯科大学卒業。同大学大学院高齢者歯科学分野修了後、医員、非常勤講師を経て助教を務めた。2017年に在宅医療に特化した医療法人社団 悠翔会に入職。法人唯一の歯科部門に所属し、広エリアの歯科診療を担う。日本老年歯科医学会指導医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士。

インタビューしたのは…

あさりさん

東京医科歯科大学3年生

あさりさん

歯学部生エディターズ。高校時代に矯正治療を経験し、歯科医師を志す。座右の銘は「There is always light behind the clouds」。

歯学部生エディターズ。高校時代に矯正治療を経験し、歯科医師を志す。座右の銘は「There is always light behind the clouds」。

歯科を越えた多職種連携で診療に取り組む

あさり: 訪問診療に興味があるので、今日はいろんなお話を伺えたらと思います! まず、先生のお仕事内容について教えてください。

若杉: 診療で一番多いのは入れ歯の作製で、虫歯治療や抜歯、神経の治療も行います。摂食嚥下治療では、嚥下障害があるかもしれないと気づくことから、内視鏡検査をするかどうかの判断、短期・長期目標に応じたアドバイスなどのアセスメントが中心です。

あさり: 幅広い治療をされているんですね。入れ歯は訪問先で作られるんですか?

若杉: そうです。日本は世界で唯一訪問診療が保険でできる国なので、訪問用のものがたくさん販売されているんですよ。ポータブルのエンジン、ユニットからレントゲンまで充実しているので、一通りの診療がその場でできるんです。

あさり: すごい、便利! でも、チェアはご自宅にあるものを使うことになりそうですが…。

若杉: 介護用ベッドを使っている方が多いので、その場合は高さを変えたりできるんですが、たまに椅子のない生活をされている方や、お布団で寝ている方もいて…。

あさり: それは大変そうです。

若杉: 無理な姿勢で診療して、腰を悪くしてしまう先生もいますね。布団だとどうしても難しい治療もあるのですが、できる範囲で最善を尽くすようにしています。

あさり: そのほか、高齢の方を診療するにあたって難しいことはありますか?

若杉: うーん、難聴や認知症の方に「舌を出してください」と指示をするのに時間がかかるとか、細かいことはあるけれど、頭を抱えてしまうようなことはほとんどないかもしれません。むしろ、訪問診療はまだあまり一般的でないこともあって「ありがとう」と言われることの方が多いくらい。

あさり: そうなんですか! ちょっと意外でした。

若杉: 訪問診療は外来と違って、患者さんと一対一の関係にならないんですよね。主治医の先生、看護職の方、ケアマネジャーさん、歯科衛生士さんとみんなでサポートし合うので、そんなに困ってしまうことはないんです

あさり: なるほど、他職種の方と一緒に取り組めるんですね。連携はどのように行われていますか?

若杉: 一般的な歯科医院では、地域のケアマネジャーから依頼が来て訪問するのが基本。でも悠翔会ではひとつの歯科部門が広い範囲を担当していて、法人内の医師から依頼を受けて訪問するので、地域の中で密に連携し合うのが難しいんです。だから看護職の方やヘルパーさんの来る時間に合わせて訪問したり、こまめに電話をしたりしてコミュニケーションを取っています。

あさり: 大型法人ならではの工夫があるんですね。

訪問での診療は「目的」ではなく「手段」

若杉先生の1日のスケジュール

歯科診療部で4チームに分かれ、9時に事務所を出発する。

自宅を回る場合は1日8名ほど、施設の場合は20~30名を診療。高齢の方は長時間の診療に疲れてしまうため、自宅の場合は30分ほどで済ませるようにしている。

17時~17時半に事務所へ戻り、片づけをして18時半には退勤。

あさり: 先生が訪問診療で一番やりがいを感じることは何ですか?

若杉: なんといっても患者さんの生活を支えられることです。こちらのセオリー通りにいかないことも多いけれど、その中で何ができるかを考えながら取り組むのが楽しいですね。

あさり: 診療するうちに患者さんの全身状態が改善することもありますか?

若杉: もちろんです。退院したばかりで弱っていた方が食べられるようになったり、胃ろうや鼻管が取れたり。長く診ていく分、喜びも大きいですよ。ただ、外来では診療自体が目的になる一方で、訪問の診療はあくまで“生活を支えるための手段”なんです。私はそれが魅力だと思うんですが、「確実に治せる診療がしたい」という人は外来の方が向いているかもしれません。

あさり: 外来とはまた違う面白さがあるんですね。歯科を越えた診療に取り組むにあたって、特に必要な知識はありますか?

若杉: 圧倒的に病気の知識です。訪問診療では病気のない人を診ることがほとんどないので、知識がないと適切な診療もできないし、医師や看護師の方ともお話ができないんですよ。私が在籍していた高齢者歯科の医局では全身疾患を学ぶところから始めるので、自然と勉強を進めていけたのはラッキーだったと思います。

あさり: 口の中の知識だけではいけないんですね。技術面ではどういったものが求められますか?

若杉: まずは入れ歯の技術でしょうか。高齢の方は少しでも入れ歯が合わないと食べられなくなってしまうので、細かい調整が必要になるんです。あとは摂食嚥下障害の知識と、コミュニケーションスキルですね。

あさり: 高齢の方とのコミュニケーションで大切なことは何ですか?

若杉: 必ず敬語で話すこと。高齢の方が相手になるとタメ口になってしまう人もいるんですが、実は不快に思われていることが多いんです。よほど仲良くなってきたら「そうだよね」のように言うこともありますが、初めは敬語が基本です。

あさり: たしかに、タメ口だと敬意がないように思われてしまいそうです。患者さんには認知症の方もいらっしゃると思いますが、どのようにお話されていますか?

若杉: 認知症にも軽度から重度まで段階があるので、反応を見ながらではありますが、ほかの患者さんと同じように説明しています。嚥下内視鏡を入れるときも、「説明してもわからないだろう」と思って何も言わないと絶対に拒否されてしまうんです。だから必ず説明をして、納得してもらってから行うようにしています。

あさり: 理解していただかないと、無理やり治療したことになりますものね…。

若杉: そうなんです。訪問診療は主訴がなくてもこちらから行くことになるので、「歯科医師だけが困っている」というケースがよくありますよ。

あさり: 歯科医師だけが困っている?

若杉: はい。グラグラの歯があって「抜きたい!」と思っても、患者さんご本人は何も気にしていない。そうすると同意が取れないので、治療はできないんです。患者さんもご家族も困っていなくて、歯科医師だけが困っているという…。

あさり: なるほど…! ご家族への説明も重要ですよね。

若杉: ご家族は必ずしも一緒に住まれているわけではないので、口腔状態まで把握されていなかったり、「かわいそうだから抜かないで」と言われることもあります。そういったなかで同意を得るのは簡単ではないですが、とにかく詳しくご説明することを大切にしています。

あさり: これまで診療されたなかで、特に印象に残っている患者さんはどんな方ですか?

若杉: たくさんいらっしゃるので選ぶのが難しいんですが…やはり、初めてお看取りをした患者さんですね。進行性の病気がある方だったのですが、胃ろうは作らずにご自身で食事をしたいという希望があって、私のところに依頼がきたんです。検査をして「とろみをつけたお茶や、こういった形状のものなら大丈夫ですよ」と伝えたところ、看護師さんや介護士さんがいろんな食材で一生懸命作ってくださって。

あさり: すてきなお話です…。

若杉: そうやって食事を楽しみながら少しずつ衰弱して、亡くなられていきました。今でもその看護師さん、介護士さんと私はご家族との関係が続いていて、ときどき会ってお食事したりしています。

あさり: 今でも! それも訪問診療ならではですよね。

若杉: そうですね。ただ、その患者さんのお看取りが私にとって理想的だったので、他の患者さんも同じようにしたいと思ってしまうんですが、それは絶対にだめなこと。ご本人やご家族それぞれに意向があるので、誰かひとりのケースに近づけようとしてはいけないんです。そういったお看取りの難しさを実感したという点でも、特に印象深い患者さんですね。

あさり: 自分の理想に近づけてはいけない…勉強になります。

回り道は絶対に無駄にならない

若杉先生の学生時代

1~2年生 1~2年生:中学・高校が女子高だったため、共学の環境が新鮮だった。硬式テニス部に所属し、みんなで部活をしたり遊んだりと青春をエンジョイ。
3~4年生 バイトに明け暮れ、貯めたお金で海外旅行へ。
5~6年生 徐々に将来のことを考え始める。「どの分野に進もうか」と思いながら授業を受けるうちに入れ歯や全身状態の勉強がしたいと思うようになり、高齢者歯科を志す。

あさり: 先生が歯科医師を目指したきっかけは何でしたか?

若杉: めちゃくちゃ恥ずかしい話なんですが…私、子どもの頃に歯科医院が大嫌いだったんです。まぶしいのがいやでライトを消してもらったり、それでも暴れるから抑制帯に入って治療を受けたりして(笑)。でも、いつも隣についてくれるピンクの服を着た人は可愛いし優しいし大好きだったんです。それで、母に「あの人みたいになりたい」と言ったら、「あの人は歯医者さんよ」と。

あさり: えっ、でもそれって…。

若杉: そう、歯科衛生士さんだったんですよね。でも「私は歯医者さんになる!」と思い込んで、そのまま高校生になったんです(笑)。

あさり: えー! 大きくなるにつれて気づきませんでしたか?

若杉: 高校生になるとさすがに「あれは歯科衛生士さんだった」とわかったんですが、その頃には資格を取って働くのもいいなという考えも生まれてきて、歯学部に進学しました。

あさり: 小さい頃の勘違いが、今のお仕事になっているんですね(笑)! その後、訪問歯科に進んだのはどうしてですか?

若杉: 入れ歯や全身状態の勉強をしたいと思っていたので、卒業後は高齢者歯科の医局へ入りました。そこで訪問のアルバイト募集があって、最初は「外来をひと通り経験したいから」と断っていたんですが、3年目になったときにそろそろやってみようと思ったのがきっかけです。

あさり: 卒業していきなり訪問に行くのは難しいのでしょうか。

若杉: さきほどお話ししたように、訪問診療では歯科医師の目指す理想的な治療ができないんです。悪いところを全部削らずに詰めるとか、唾液が入ってしまうなかで根管治療をしたりとか、患者さんの状態や環境に合わせて対応しなければいけない。だから、まずはユニット上で普通の診療ができるようになって、それから訪問に進むのをおすすめします。新人時代なら80%は歯科の勉強をして、20%は病気の勉強をしておくのがいいかもしれません。外来にも持病のある方は来られますから、診療への対応力も高くなりますよ

あさり: 歯科医師のベースを作りながら、訪問への知識も増やしていくのがいいんですね。

若杉: そう思います。「一度クリニックに就職したらそのまま働かなきゃ」というイメージがあるかもしれないけれど、医局には本当にいろんなキャリアの人がいるんですよ。クリニックで働いてから大学院に入った人や、専攻生で来る人も。軌道修正しながら、自分なりの道を進んでいっていいと思いますよ。

あさり: 最初に決めた通りじゃなくてもいいと思うと安心します。

若杉: うんうん。私も大学院に入った当時は、就職したみんながどんどん治療技術を上げてお金を稼いでいるのを見て焦っていました。でも大学院が終わる頃には自分のやっていることが楽しくなったし、今の仕事にもつながっています。歯科医師人生は長いし、回り道は絶対無駄にならないから、すぐに道を決めなくても大丈夫! その上で、いつか訪問診療を選んでくれたらうれしいです。

あさり: はい、柔軟に進路を考えていこうと思います! 今日はありがとうございました!

インタビューを終えて

お話を聞いてわかった! 訪問歯科の仕事は…

患者さんの生活を支える喜びがある

全身疾患の知識が不可欠

ご本人やご家族の意向を尊重することが大切

取材を通じて訪問診療のイメージがより明確になりました。他職種との連携やキャリアについてなど、具体的でリアルなお話が聞けて、とても貴重な時間でした!

「学生時代は臨床以外の授業をあまりまじめに聞いていなかったけれど、今になってちゃんとやっていればよかったと思っています。実は、臨床に直結しない授業ほど面白かったりするんですよ」と若杉先生。今は興味のないことも、必ず将来に役立つはず! 幅広く知識を吸収し、可能性を広げていってくださいね。

次回は、歯周病治療を専門とする先生が登場します。お楽しみに!

撮影/榊水麗 文/編集部

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