歯学部生からの相談内容【歯磨剤薬用成分による収歛作用はヒノキチオールにもあるのですか?】
歯学部生の学習お助けユニット“JYP”のCBTレベル「勉強相談室」Q&A #9 会員限定歯学部生なら避けては通れないCBT。臨床実習を受ける資格を得るためにパスしなくてはいけない試験ですが、コンピューターで行われるテストということもあり、問題の予測はなかなか難しいところ…。
そこで、CBTを受験するまでにマスターしておきたい学習範囲のなかから、歯学部生から募集した難問について、勉強お助けユニットJYP(ジュンヤとジュンペイ)がレクチャー! 毎月1問、じっくり教えてもらいます。
【今月の相談内容】
歯磨剤薬用成分の作用
ご質問ありがとうございます。歯磨剤については現在の歯科医師国家試験出題基準から必修範囲の内容に明記されるようになりました。歯磨剤の成分と作用について、以前から多くの問題が出題されてきましたが、今後も基礎的な範囲での出題が増えると予想されます。
今回の質問は、歯科医師国家試験114回A 84からの疑問ですね。まず始めに問題を見てみましょう。
解説
正答はa塩化ナトリウムとbヒノキチオールとなります。
なお、デキストラナーゼはプラークの分解、乳酸アルミニウムは知覚過敏、ピロリン酸ナトリウムは歯石形成の予防となります。
歯肉の収斂効果というと塩化ナトリウムが有名で国家試験問題でも聞かれることが多かったですが、この問題ではヒノキチオールも歯肉収斂効果を示すものとして正答となりました。歯肉収歛作用を示すものを改めて調べてみると塩化ナトリウムやヒノキチオールのほか、オウバクエキス、アラントインなどさまざまなものが出てきます。
どのように整理して理解すれば良いか一緒に考えていきましょう。
ヒノキチオールとは
ヒノキチオールは、ヒノキ油やヒバ油の植物から単離された無色から淡黄色の物質です。ヒノキチオールは幅広い作用が研究されており、抗菌作用、炎症抑制作用、歯肉収斂、出血抑制作用などがあるとされていることから歯周病の予防に関わることが報告されています。ちなみに、幅広い作用からヒノキチオールは歯磨剤のほか、化粧品や育毛剤などにも含まれているものがあるようです。
歯磨剤の薬用成分として、厚生労働省の令和3年「薬用歯みがき類製造販売承認基準」でヒノキチオールはⅦCに分類され、「歯周炎(歯槽膿漏)の予防」「歯肉(齦)炎の予防」「口臭又はその発生の防止」に効果があるとされています。
歯磨剤の薬用成分はこの基準に則ったものを使用することが必要で、基準に適合しない成分は審査を受けて認められる必要があります。参考のためこちらの資料に記載されている成分のうち、主なものを示しています。
特にⅦ欄は口臭予防として銅クロロフィル、今回の歯肉収斂(歯周病予防)としてヒノキチオールがすでに国家試験に出題されていますので、余裕がある方は抗菌作用としてリゾチームや同じく抗菌作用としてラウロイルサルコシンナトリウムも覚えておくと良いかもしれません。
覚えておくべき薬用成分
続いて、歯磨剤の薬用成分について覚えておいた方が良い内容をまとめました。これだけ覚えておけば良い必要十分の表と、さらに詳しく見ておきたい方のための表も添付しています。
必要十分の方の表を見ながら、よく出題される代表的な成分を一緒におさえておきましょう。
う蝕予防のためのフッ化物は、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウムを覚えておきましょう。歯磨剤に入れることができるフッ化物の上限は1500ppmということも忘れないようにしてください。
歯周病予防には歯肉収斂作用として塩化ナトリウム、出血抑制作用としてトラネキサム酸、血行促進として酢酸トコフェロール(ビタミンE)を覚えておきましょう。その他のグリチルリチン酸、β-グリチルレチン酸、ヒノキチオール、オウバクエキスは(総合的に)で歯周病を予防すると覚えた方が良さそうです。
殺菌作用としては、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、トリクロサンの4つを覚えておきましょう。クロルヘキシジン以外の3つは粘膜の消毒にも使われます。
知覚過敏の予防としては、乳酸アルミニウム、塩化ストロンチウムと硝酸カリウムを覚えてください。乳酸アルミニウムと塩化ストロンチウムは象牙細管の封鎖を行うことで、象牙細管内液の移動を防いて知覚過敏を抑えます。硝酸カリウムは歯髄神経を鈍麻させることで知覚過敏を抑えます。作用機序の違いも覚えておくようにしましょう。
最後にその他の項目ですが、こちらが意外と大事です。口臭予防として(銅)クロロフィル、歯垢分解としてデキストラナーゼ、歯石沈着予防としてピロリン酸ナトリウムやポリリン酸ナトリウムは国家試験の正答肢や選択肢にすでに登場しています。
特にデキストラナーゼは頻出で、ブラッシングなどによって物理的にプラークを除去するのではなく、酵素によって化学的にプラークを分解するので「化学的プラークコントロール」などとも表現されることがあります。タバコのやに除去のためのポリエチレングリコールも併せて覚えておきましょう。
今回の問題の解き方
最後に改めて今回の疑問の元となった国家試験の解き方を考えてみましょう。
結論から言うと、ヒノキチオールの薬用作用として収斂作用をしっかりと覚えておく必要があるというよりも、その他の選択肢であるa塩化ナトリウム(歯肉収斂作用)、cデキストラナーゼ(プラークの分解)、d乳酸アルミニウム(知覚過敏予防)、eピロリン酸ナトリウム(歯石形成予防)が非常に典型的であるので除外していき、a塩化ナトリウムに加えてbヒノキチオールを選択できれば問題ないと言えます。
元々植物に由来する成分である、グリチルリチン酸とグリチルレチン酸(甘草の成分)、ヒノキチオール(ヒノキやヒバから抽出)、オウバクエキス(黄檗:オウバクは漢方)は具体的な作用を覚えるよりも、歯周病の予防の作用があると広く捉えておいた方がその他の問題に応用が効くと考えています。
薬用成分の作用について覚えられましたか? まずは「必要十分」の表をマスターし、消去法でもしっかり問題を解けるようにしていきましょう!
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